SharePoint を活用したナレッジマネジメント戦略|情報共有の「困った」を解決

📣 この記事でわかること |
✔ ファイルサーバーや他のツールとは違うSharePointの特徴 |
企業の成長において、知識(ナレッジ) は最も重要な資産です。しかし、「あの情報、どこにいったっけ?」「担当者が辞めたら何も分からない…」といった「情報共有の困りごと」は日常茶飯事。これでは、業務効率が低下し、ビジネスチャンスを逃しかねません。
そこで、登場するのが Microsoft 365 の SharePoint Online(以下、SharePoint)です。「SharePoint って、ただのファイル置き場でしょう?」と思われがちですが、それは大きな誤解です。SharePoint は、単なるドキュメント管理ツールではなく、企業内のナレッジマネジメントを劇的に改善する強力なプラットフォームへと日々進化しています。
この記事では、SharePoint を活用したナレッジマネジメントの方法と運用のコツを分かりやすく解説します。
目次[非表示]
ナレッジマネジメントとは? SharePoint が担う役割
まず、ナレッジマネジメントの基本と、なぜ SharePoint がこの分野で優れているのかを説明します。
ナレッジマネジメントの定義と目的
ナレッジマネジメントとは、「個人が持つ知識や経験、ノウハウなどを組織全体で共有し、活用することで、新たな価値創造や業務効率の向上を目指す活動」のことです。
ナレッジは主に以下の 3 つに分類されます。
暗黙知 | 個人の経験や勘、ノウハウなど、言葉や文書にしにくい知識 (例:ベテラン営業マンの商談テクニック) |
形式知 | マニュアル、報告書、設計図、データなど、文書やデータとして表現できる知識 (例:製品の仕様書) |
集合知 | 組織内の多くのメンバーが協力して生み出した新たな知識やアイデア (例:ブレインストーミングの結果) |
ナレッジマネジメントの最大の目的は、暗黙知を形式知に変え、それを組織全体で共有・活用できるようにすることです。
SharePoint がナレッジマネジメントに優れている理由
ファイルサーバーや他の一般的なクラウドストレージと SharePoint が決定的に違うのは、ドキュメントの「保存」だけでなく「活用」に特化している点です。
SharePoint は、以下の機能により、ナレッジマネジメントをサポートします。
▼強力な検索機能
必要な情報に瞬時にアクセスできる能力は、ナレッジ活用の生命線です。SharePoint はメタデータ(後述)やコンテンツの中身までを横断的に検索できます。
▼構造化された情報管理
サイト、ドキュメント ライブラリ、リストといった階層構造で情報を分類でき、散逸を防ぎます。
▼共同編集とバージョン管理
ドキュメントを複数人で同時に編集したり、過去のバージョンに簡単に戻したりできるため、ナレッジの「鮮度」と「信頼性」を保てます。
▼Microsoft 365 との統合
Teams、Outlook、OneDrive とシームレスに連携するため、日常の業務の流れの中で自然にナレッジを共有・蓄積できます。
【実践編】SharePoint でナレッジを構築する 3 つの機能
実際に SharePoint をナレッジベースとして機能させるために、特に重要な 3 つの機能とその活用法を解説します。
①コミュニケーション サイトとチーム サイトの使い分け
SharePoint には、大きく分けて「コミュニケーション サイト」と「チーム サイト」の 2 種類があります。ナレッジマネジメントでは、これらを目的別に使い分けることが重要です。
サイトの種類 | コミュニケーション サイト | チーム サイト |
主な目的 | 全社・部門全体への情報発信 | チーム内での共同作業・文書管理 |
ナレッジマネジメントでの役割 | 全社共通の形式知の公開。ポータルとして機能。 | 暗黙知の形式知化の場。プロジェクト関連のナレッジ蓄積。 |
適したコンテンツ | 経営理念、社内規定、全社向け FAQ、ニュース、広報資料 | プロジェクトドキュメント、議事録、部門マニュアル、担当者別のノウハウ集 |
✅設定のコツ
コミュニケーション サイトを「ナレッジポータル」として位置づけ、トップページにチーム サイトへのリンクや、頻繁に参照される重要文書を埋め込みましょう。全社的なナレッジへの「玄関」を作るイメージです。
②ドキュメント ライブラリと「メタデータ」
ファイル管理において、フォルダによる階層構造はすぐに破綻しがちです。「顧客 A の資料」は「営業部フォルダ」に入れるべきか?それとも「製品 B フォルダ」に入れるべきか?すぐに迷いが生じます。
ここで SharePoint の真価を発揮するのが、メタデータです。メタデータとは、「データに関するデータ」のことで、ファイル自体に付与する「タグ」のようなものです。
▼メタデータ活用の具体例
従来のフォルダ管理 | SharePoint + メタデータ管理 |
場所: 営業部 > 顧客別 > A社 > 提案資料 | メタデータ: [部門: 営業部] [顧客名: A社] [文書種別: 提案書] [ステータス: 承認済み] |
結果: A 社に関する資料が別のプロジェクトフォルダにもあると見つけにくい | 結果: 検索やフィルターで、「文書種別が提案書」かつ「ステータスが承認済み」の全文書を瞬時に抽出できる |
✅設定のコツ
ドキュメント ライブラリ作成時に、必須の列として「文書種別」「担当部署」「ステータス」などを設定し、ファイルのアップロード時に必ず入力させるルールにしましょう。これにより、誰もが同じ基準でファイルを分類でき、強力な検索性が実現します。
さらに、最近登場したナレッジ エージェントを使えば、AI がドキュメントの内容を分析し、自動で適切なメタデータ列を提案・追加してくれます。これにより、情報の構造化が大幅に効率化され、手動で何時間もかけて設定する手間がなくなります。
③SharePoint リストによる構造化データの管理
SharePoint はドキュメントだけでなく、リストを使って構造化されたデータを管理するのに優れています。これは、Excel で管理していた表形式のデータを、より共有しやすく、検索しやすいデータベースのように利用できる機能です。
▼ナレッジマネジメントにおけるリストの活用例
FAQ リスト | 質問、回答、カテゴリ、最終更新日などの列を設定し、社内の「よくある質問」を一元管理。 |
ノウハウ・TIPS リスト | 業務上のちょっとした工夫やテクニックを登録。「カテゴリ」「難易度」「成功事例」などのメタデータで検索しやすくする。 |
専門家リスト | 社内の特定技術や業務に詳しい担当者の連絡先、得意分野、現在の担当プロジェクトなどを一覧化。 |
✅設定のコツ
リストの表示形式(ビュー)を工夫することで、一覧性や視認性が向上します。例えば、FAQ リストを「カテゴリ別」にグループ化したり、「まだ回答がない質問」だけを抽出するビューを作成したりしましょう。
暗黙知を形式知へ!実践的なナレッジ蓄積のメカニズム
ナレッジマネジメントの最大の壁は、個人の中に留まっている「暗黙知」を、組織全体で使える「形式知」に変えることです。SharePoint は、このプロセスを自然な形で促進するツール群を提供しています。
Teams と他アプリの自然な連携
Microsoft Teams(以降、Teams)は、日常のコミュニケーション、会議、共同作業の「場」です。そして、Teams の裏側では他アプリが自然に連携しています。
- Teams でファイル共有 → SharePoint のチーム サイトに保存
- Teams のノートに記載 → OneNote に保存
▼暗黙知の形式知化の具体例
会議でのノウハウ抽出:
営業チームの定例会議で「最近の商談で成功した事例」を Teams のチャットで議論。
ナレッジ化:
議論の中で出た具体的なテクニックや資料を、Teams のタブからアクセスできる SharePoint チーム サイトの「成功事例ライブラリ」 に担当者が形式知としてアップロード・登録。
活用:
新人営業マンは、このライブラリから「A 社との商談で有効だったプレゼン資料」を検索して活用する。
このように、日常の業務の中で自然発生するノウハウが、特別な作業なしに SharePoint に蓄積されていきます。
SharePoint ページを活用した「生きたドキュメント」
マニュアルや規定集は、放置するとすぐに古くなり、「誰も見ないドキュメント」と化します。SharePoint ページは、この問題を解決します。
▼SharePoint ページの機能
ページ作成 | ドキュメント ライブラリの Word ファイルを、分かりやすい図や画像、動画を埋め込んだ Web ページ形式で公開できます。 |
モダン UI | 最新の SharePoint は、誰でも簡単にプロフェッショナルなレイアウトのページを作成できるモダン UI(ユーザーインターフェース) を採用しています。 |
コメント機能 | ページの下部にコメント欄があり、読者が「ここが分かりにくい」「最新の情報に更新されていない」といったフィードバックを即座に残せます。 |
✅活用のコツ
「ハウツー」や「部門紹介」など、テキストベースで頻繁に更新されるナレッジは、Word ファイルではなく SharePoint ページで作成・公開することを強く推奨します。
ナレッジマネジメント成功のための SharePoint 運用戦略
ナレッジマネジメントはツールを導入しただけでは成功しません。SharePoint を真のナレッジベースにするには、組織的な運用ルールと戦略が必要です。
運用ルール|情報のライフサイクル管理
ナレッジは「生き物」です。そのため、新鮮な状態を保つためのルールが不可欠です。
- 誰が作るか:知識の発生源となる現場部門やプロジェクト担当者を明確にする。
- 誰が承認するか:公開前に情報の内容が正確であることを確認する責任者(部門長、SME)を定める。SharePoint の承認ワークフロー機能で自動化しましょう。
- 誰がメンテナンスするか:ドキュメントやサイトの所有者を必ず設定し、その情報が古くなっていないかを定期的にチェックする責任を持たせる(例:年に一度のレビュー)。
- いつ捨てるか:不要になった情報を自動的にアーカイブまたは削除するための保持ポリシーを設定し、ライブラリの「情報過多」を防ぎます。
構造化の考え方|ハブ サイトと検索の最適化
情報が肥大化すると、どこに何があるか分からなくなります。SharePoint の「ハブ サイト」機能を使って、情報を論理的にグループ化しましょう。
▼ハブ サイトの設定例
ナレッジポータルの例

ハブ サイト名 | 紐づけるサイト(チーム サイト/コミュニケーション サイト) |
ナレッジポータル | 営業部門、開発部門、総務部門、人事部門(部門別のナレッジサイト) |
- プロジェクトセンターの例

ハブ サイト名 | 紐づけるサイト(チーム サイト/コミュニケーション サイト) |
プロジェクトセンター | PJT A、PJT B、新規事業開発(進行中のプロジェクトサイト) |
ハブ サイトを設定すると、ハブに紐づくすべてのサイトを横断して検索できるようになります。これにより、ユーザーはサイトを一つ一つ巡回することなく、必要な情報にたどり着くことができます。これはナレッジ活用において極めて重要です。
専門家を見つける|ユーザー プロファイルと検索の活用
暗黙知を持つ人に素早くアクセスすることもナレッジマネジメントの一環です。
SharePoint の検索機能や Microsoft Search は、ドキュメントだけでなく、ユーザー プロファイルも検索対象とします。これらを活用することで、「誰に聞けばいいか分からない」という問題を解消し、人を通じた暗黙知の共有を促進できます。
▼活用手順
- ユーザー プロファイルの充実:従業員に対し、自身のスキル、専門分野、過去のプロジェクト経験などを Microsoft 365 のプロフィールに登録するよう奨励する。
- 検索:ユーザーが検索窓に「AWS 移行」と入力すると、関連するドキュメントだけでなく、「AWS 移行の経験者」も検索結果に表示されます。
SharePoint ナレッジマネジメントの導入障壁と解決策
最後に、導入時にぶつかりがちな障壁と、それを乗り越えるための具体的な解決策を紹介します。
障壁 1:ユーザーの利用定着(使われない)
最も多い失敗原因は、「ツールは導入したものの、誰も使ってくれない」ことです。
▼解決策
- 入口の一元化:SharePoint サイトをブラウザの「ホームページ」や Teams の「ピン留め」にするなど、必ず通る場所に設置する。
- 強制的な導線:従来のファイルサーバーを読み取り専用にし、新規文書は SharePoint にアップロードすることを義務付ける。
- 成功事例の表彰:積極的にナレッジを共有・更新したユーザーや部門を社内報や社内 SNS で表彰し、インセンティブを与える。
障壁 2:情報が整理されない(ゴミ箱化)
ファイルが大量にアップロードされ、メタデータがバラバラで「デジタルゴミ箱」と化すケースです。
▼解決策
- 専任担当者の設置:各部門に SharePoint のコンテンツ管理者を指名し、そのサイトの情報整理に責任を持たせる。
- テンプレートの徹底:ドキュメント ライブラリ作成時に、「テンプレート」機能を使って、必須のメタデータ列を埋め込んだドキュメント ライブラリに保存させる。これにより、メタデータ列でドキュメントを迅速に検索・抽出することが可能になり、必要な情報へのアクセスが容易になります。
- シンプルイズベスト:最初から複雑な分類階層を作らない。まずは大まかな分類で始め、運用しながら現場の声を聞いて改善していく(アジャイルな運用)。
障壁 3:高度な検索ニーズへの対応
標準機能だけでは解決できない複雑な検索ニーズが出てくることがあります。
▼解決策
- 検索スキーマのカスタマイズ:SharePoint 管理センターで検索スキーマをカスタマイズし、特定のメタデータ(例:「製品コード」「プロジェクト名」)を検索結果に強調表示させる。
- アドオン製品の検討:より高度なナレッジ活用を目指す企業は、検索機能を拡張するサードパーティー製のアドオン製品の活用も一つの方法です。ez office では、ドキュメント ライブラリの検索性を向上させる「ez ライブラリ」を提供しております。ドキュメント管理にお困りの方はぜひ下記よりお問い合わせください。
まとめ:SharePoint で組織の知識を「資産」に変えよう
SharePoint は、単なるクラウドストレージではなく、組織のナレッジを収集、構造化、共有、活用するための統合プラットフォームです。今回紹介した戦略を実行することで、「あの情報どこ?」という非効率な時間は激減し、組織の誰もが過去の知見を基に、迅速かつ的確な意思決定ができるようになります。
SharePoint を最大限に活用し、組織を知識集約型の集団へと進化させましょう。








